夕桜 後編 [恋愛]
雄二は特に陽菜に何の連絡も無しにニューヨークへ行ってしまいました。
頼りになるのは、パソコンでのメールのやり取りのみ。陽菜は毎晩、雄二がどうしているのか尋ねるメールを送り続けました。雄二の方はたまに返事が返ってくるだけ。でもその内容は。「英会話で困っている。思っているように相手に伝わらない。」「ライブの仕事がほとんど無い。普段はウエイターの仕事で何とか食いつないでいる。」「こないだ大雪が降ったら、雪かきの仕事が臨時であったからやってみた。かなりきつかった。」・・・音楽から段々遠ざかっているような生活を送っているのが分かってきました。
陽菜は雄二には悪い気がしたけれど、このまま根をあげて帰国してくるのではないか、と期待していました。
でも、そのうち雄二からのメールはぱったりと来なくなってしまったのです。陽菜からいくらメールを送っても返事は無し。
陽菜はいらいらと毎日を過ごしていました。でもどうしようもない。
そのうち、桜の便りが聞こえ始めました。通勤途中に見る桜のつぼみがどんどん膨らむのを見ながら、陽菜はふと思いました。「もう、私が我慢することは無い。私は私の人生をちゃんと生きたい。」
陽菜は今まで気にかけながらも避けていた、婚活を始めることにしました。桜が次々と咲き誇ると同時に様々なイベントがあり、陽菜はとにかく顔を出して行きました。何か少しでもきっかけが出来れば、と。
そのうちに、ホテルで行われたパーティーで一人の男性と会いました。特に魅かれる所は無いけれど、穏やかでにこやかな人でした。「この人となら落ち着いたお付き合いができそう・・・。」
2人は改めて、別の日にレストランでディナーを共にする約束をしました。
その日を目指して陽菜はまず美容院へ行き、新しい春物の服を買いました。家で買った服を着て鏡の前に立つと、それだけで華やかな気分になってきました。でもその時、ふと雄二のことが頭をよぎったのです。その不安げな顔が鏡に映っていることに気づくと陽菜は慌てて目をそらし、普段着に着替え直しました。
そして、いよいよデートの当日の夕方。頭の先から足元まで緊張した陽菜は、駅へ向かう道を歩いていました。脇には見事な桜並木が続き、その花は夕日に照らされて、昼間とは違うほんのりと暖かみのある色でした。
その時、陽菜の携帯が鳴りました。見ると雄二からだったのです。「もしもし、久し振り。今、陽菜の家の近くの駅に居る。日本の桜ってやっぱり良いよなあ・・・」陽菜がはっと顔を上げると向こうから人影が近づいて来ます。夕日に照らされたのは、懐かしい顔。
陽菜が思わず駆け寄ろうとした時、携帯のメールが入りました。慌ててみると、夕食の約束をしている男性からでした。『もう、店の前に着きました。今、どこに居ますか?』・・・陽菜はじっと携帯を見つめました。
そのうちに雄二が陽菜の前にやって来ました。「誰から?」
陽菜はぐっと携帯を握りました。
~終わり~
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